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Friday, May 28, 2021

レッドオーシャン時代のMVNO市場を振り返る 「接続制度」と「公正競争」の行方は?:ITmedia Mobile 20周年特別企画(1/3 ページ) - - ITmedia

 MVNOの振り返り企画の前編では、MVNOの誕生から、MVNOが提供する低価格なスマホサービスである「格安SIM」(格安スマホ)の隆盛までを取り上げました。

 2012年以前には存在しなかった「格安SIM」は2014年には230万回線超の契約を獲得するに至ります。格安SIMがわずか数年で急速に成長した要因の1つには、フルサービス・フル価格戦略に突き進む大手主導の携帯電話市場の中で、必ずしもフルサービスを必要としない消費者がいわば置き去りになっていたということもあるでしょう。

 ぽっかりと開いた低価格市場は、登場したばかりのコンシューマー向けMVNOにとってはまさにブルーオーシャンで、これまで通信事業に無関係だった異業種を含め、数々の事業者がMVNOに参入し「格安SIM」「格安スマホ」として営業を行うようになりました。

MVNO さまざまな事業者がMVNO市場に参入し、ユーザーは多くのサービスを選べるようになった

市場環境の変化で苦境に立たされるMVNO

 しかし、2015年ごろから市場の様相は変わり始めます。MVNOに参入した事業者はさまざまな背景を持っているとはいえ、そのビジネスの根幹は「大手キャリアから卸売りを受けた設備を小売りする」というものです。また、大手キャリアは原則としてどのMVNOに対しても同じ費用で設備を提供するため、MVNOにとっての最大のコストである「接続料」はどの事業者でも変わりません。

 そのため、新規参入したMVNOは利益を削ってエンドユーザー価格を下げるという販売手法を取ることが多く、既存MVNOも対抗のために価格を下げ、市場はあっという間にレッドオーシャン化しました。また、初期のMVNOを支えたITリテラシーの高いアーリーアダプター層へのMVNOの浸透が一巡し、市場拡大のためにマジョリティー層開拓に向かったMVNOは、目立つ広告や丁寧なお客さまサポートなど、市場開拓のための高いコストに直面します。中にはマジョリティー層開拓のための積極策が裏目となり、経営に行き詰まるMVNOも出てきました。

プラスワン・マーケティング 「FREETEL」ブランドでMVNOや端末の事業を展開していたプラスワン・マーケティングは、2017年12月に民事再生手続きをする事態となった。MVNO事業は同年11月に楽天モバイルが承継している

 しかし、それでも消費税の増税や長引く経済環境の低迷などを背景に、家計圧縮を求める消費者がMVNOへ移行するという流れは続きます。2018年に開催された「モバイルフォーラム2018」(テレコムサービス協会 MVNO委員会主催)では、有識者から「MVNO市場の成長は依然顕著で、これで市場が飽和していると言ったら他業種の人から怒られる」というコメントが寄せられました。

 ですが、MVNOにとって苦しい局面が続きます。

 この頃顕在化した課題の1つに、通信速度の低下に対する利用者の不満が顕著になったことがあります。スマホが高性能化し通信量が増えること、また、マジョリティー層への普及が進み、動画の視聴など大量の通信を行う用途がモバイル回線上で行われるようになったことにより、1回線あたりの通信量が徐々に増加します。

 初期にMVNOの利用を開始した高リテラシー層は、自宅では家庭用ブロードバンド回線とWi-Fiを使うなど回線の特性に応じた使い分けをしていました。しかし、マジョリティー層の多くはそういった器用な使い分けが苦手です。結果、通信需要の増加に設備の拡充が追い付かず、スマホの利用が集中する時間帯を中心に通信速度の低下が激しくなります。

 ここでMVNOが設備投資、つまり大手から借り受ける設備の大幅な拡充を進められればよかったのですが、激しい価格競争の中で利益を削ってきたMVNOには十分な体力がなく、現状維持で精いっぱいという状況が続きました。

 もう1つは大手キャリアの低価格市場への侵攻です。MVNOに顧客を奪われる形になったKDDIとソフトバンクは、系列の通信会社を通して低価格市場に参入しました。

 KDDIは、当初他事業者によるMVNOを支援するための子会社(MVNE)として立ち上げた「KDDIバリューイネーブラ−」を使い、系列ブランドである「UQ」を冠したMVNO「UQ mobile」を立ち上げます。UQ mobileは、別会社によるMVNOという立て付けではあるものの、KDDIがUQ mobile専用のSIMカードなどを持ち、KDDIグループの一員として戦略的な活動を開始します。

UQ mobile 2014年12月にKDDIバリューイネーブラー(KVE)が提供開始した「UQ mobile」だが、2015年に10月にUQコミュニケーションズがKVEを買収し、UQが提供することになった写真右はKVEの菱岡弘社長(当時)

 一方のソフトバンクは、買収したイー・モバイルの吸収過程で誕生したY!mobileブランドを使い、「格安スマホ」市場に分け入ってきました。イー・モバイル時代から展開してきた路面店や量販店のインストアショップなどを足掛かりに、実店舗での販売に力を入れます。従来MVNO向けの売り場だった大手量販店のSIMフリースマホ売り場に立てられた「SIMフリー始めました」というYahoo!ロゴの赤い旗は、まさに戦場で陣地を主張するフラグだと感じられました。

 こうしてUQ mobileとY!mobileは大手キャリアの「サブブランド」として、それまでMVNOの市場であった低価格帯で大きな存在感を示すようになります。

 また、それと並行するように、大手キャリアが独立系のMVNOを買収などの手段で傘下に収めるということも起りました。欧州など海外でも一定規模に成長したMVNOがキャリアに買収され、系列化されるような動きもありましたが、日本市場においても同様の現象が起きたのでした。

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注目される接続制度とキャリア・MVNOの公正な競争

 このような市場環境の変化の中、キャリアとMVNOの「公正な競争」のための環境整備に改めて注目が集まります。

 日本のMVNOを制度面で支えているのは、「第二種指定電気通信設備制度」にもとづく接続制度です。

 この制度のもととなった「第一種指定電気通信設備制度」は、新規参入した電気通信事業者(固定電話会社)の利用者が、既存の電気通信事業者(NTTなど)の利用者と互いに通話が可能になるよう、シェアの高い電気通信事業者に対して新規参入事業者との電気通信設備の接続を義務化する、その際に不当に高い接続料を要求することを禁止するという制度でした。

 これを援用する形で既存の大手携帯電話会社とMVNOの間の「接続」を規定したのが「第二種指定電気通信設備制度」です。

MVNO 第一種指定電気通信設備での接続

 MVNOは基地局などの電気通信設備を持たない携帯電話事業者であり、自社で直接サービスを提供することはできません。そのため、通信設備の構成から見ると第一種で規定されるような「相互接続」は行えず、実際には回線の「卸売り」と同じ形となります。ともかくも制度上「接続」として処理されることとなり、大手携帯電話会社には接続の義務と「原価+適正利潤」での接続料の設定が求められることになりました。

 結果的に3大キャリアは制度に基づく「接続」と、自主的な料金設定である「卸」の両方について、同じ機能・料金をMVNOに提供する形となっています。これは、仮に「卸」の方が「接続」よりも高額になった場合、原価+適正利潤で提供する前提の「接続」における原価算定が疑われることとなり、反対に「接続」より「卸」の方が高額になった場合、コストメリットがない卸を選ぶMVNOが現れないためです。

 接続制度を背景にした原価での設備提供はMVNOの登場において大きな役割を果たしましたが、MVNOの立場に立つと、制度に対してもどかしさを覚えるのも事実です。その1つに、事実上MVNOの「仕入れ額」に相当する「接続料」の設定にまつわる課題があります。

 第二種指定電気通信設備制度では、接続料は「原価+適正利潤」であることが求められていますが、具体的にどのように原価を計算すべきかは定められていません。また、2019年度までは接続料の算定に「遡及(そきゅう)精算方式」が取られていたため、MVNOに提示される接続料は2年前の原価にもとづく金額となっていました。毎年数%〜十数%のコストダウンが続く携帯電話市場においては、キャリアが提示する2年前の原価ベースの接続料ではキャリア(サブブランド)に対して競争力のあるサービスが組み立てられません。

MVNO 「遡及(そきゅう)精算方式」での接続料の推移

 やむを得ず各MVNOはキャリアの接続料がどの程度低下するかを予測し、先行してエンドユーザー価格を決定することになります。しかし接続制度では接続料の将来予測に必要な情報の開示は定められていません。不十分な情報に基づく接続料の予測はMVNOの経営をハイリスクなものにしていました。

 こうした状況はキャリアとMVNOの公正な競争を阻害するものであるとし、MVNO各社は改善を求めます。この要請を受け、総務省が設置する「接続料の算定等に関する研究会」において有識者の間で議論が行われ、2020年以降はキャリアが提示する接続料について、キャリアが合理的な予測に基づき、将来実施されるであろうコスト低減を織り込んだ額を提示する「将来原価方式」の導入が行われることとなりました。

 また、低価格市場に進出してきたキャリアのサブブランドであるUQ mobileとY! mobileについて、他のMVNOがキャリアから提示されている接続料であれば到底実現できないような通信速度が出せていること、広告・販売支援などの営業面に大きなコストが費やされていることが注目されます。

 MVNO各社からは何らかの形でキャリアから支援が行われているのではないか、あるいは、キャリアの企業グループ内戦略として赤字覚悟で販売されているのではないかという疑義が提示されました。本件についても、総務省が設置する「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」において有識者による検証・議論が行われることとなりました。

 このように、キャリア(サブブランド)・MVNOが競合関係となる中、立場の異なる事業者間でどのようにして公正な競争環境を実現するかが、業界の大きな課題となりました。

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ahamoショックで業界に激震が走る

 総務省の有識者会議で競争環境整備についての議論が続く中、2020年秋、冬にさらなる大波がMVNOを襲うこととなります。ドコモによる新料金プラン「ahamo」の発表です。

 それまで官房長官として携帯電話料金の低廉化に意欲的な発言を続けていた菅氏が総理大臣に就任、総務大臣に任命された武田氏とともに携帯電話業界に対して強いメッセージを発しました。これをきっかけにして、2020年10月にKDDIとソフトバンクは、UQ mobileとY! mobileを活用し、より安価なプランを発表しますが、11月に入り武田大臣はこれに不快感を表明します。

 そして、業界が推移を見守る中、ドコモが「メインブランド」として従来に比べて大きく価格を下げたプラン「ahamo」を発表しました。

ahamo 2020年12月にドコモが発表した「ahamo」はMVNO業界に大きな衝撃を与えた

 ahamoがMVNOに与えた衝撃は2つあります。1つは、これまでフルサービス・フル価格戦略をとっていた大手キャリアのメインブランドが、サービス内容を制限した低価格帯に直接乗り込んできたことです。もう1つは、ahamoが設定したエンドユーザー価格が。MVNOに提供される接続料の水準では実現不可能なレベルだと考えられたことです。

 先に紹介した通り、キャリアが設定する接続料については2019年までの遡及生産方式に代わり、2020年からは将来原価方式が導入されています。2020年度に適用される接続料は、2020年3月末に「2020年度中に実現されるであろうコスト低減」を織り込んだ額がキャリアから提示されていました。

 しかし、2020年12月に発表されたahamoのエンドユーザー価格は、MVNOの視点で見れば2020年3月に提示された「予測された接続料」では説明が付かず、キャリア内部で予測を超えるコスト低減が図られたものと推測されました。

 接続制度の趣旨に基づけば、こうしたコスト低減はMVNOに提示される接続料にも反映されるべきものです。ですが、現行の接続制度においてはMVNOに提示される接続料の改定は年1回であり、コスト低減がMVNOに反映されないままキャリアのみに先行して反映された状態になっていると考えられました。このような状態は、それまで進められてきた将来原価方式の導入など、公正な競争環境を実現するための動きと乖離(かいり)するものではないかという疑念が噴出します。

 このような異常事態を受け、MVNO委員会は2021年1月に公正な競争環境を求める要望書を総務省に提出することになります。それを受け、武田総務大臣も接続料のさらなる低廉化を求めました。

 もちろん、MVNO自身も状況の変化を座して待つわけではなく、今後実現されるであろう接続料の低下を予想し、リスクを取る形で新プランを投入しています。記事執筆時点では、主要MVNOの新料金プランがおおむね出そろい、キャリアの新プラン・サブブランド、MVNOが新たなポジショニングで競争に突入するという局面に至りました。

 これらの一連の流れは、スマートフォンの利用料金が事業者間の競争による市場経済の枠を超え、政府の経済施策・政治問題化しているという現状を如実に表しているといえます。そうした状況の中で、MVNOはさらなる発展に向けて進んでいかなければなりません。

 この先のMVNOの発展にどのような道筋が考えられるのかについては、稿を改めて1つの考察をご紹介したいと思います。

著者プロフィール

堂前清隆

堂前清隆

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 副部長 兼 MVNO事業部 事業統括部シニアエンジニア

「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。


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