2022年9月2日発売の「日経トレンディ2022年10月号」 ▼Amazonで購入する では、「ずるい文章術」を特集。新たな企画を考える際に、コピーライティング的な発想や手法が役に立つ。そう語るのが、博報堂社内でプロダクト開発チーム「monom(モノム)」を立ち上げた小野直紀氏。「生活者ベースで発想すれば、企画の種になる言葉は無数に増える」という企画術に迫った。
※日経トレンディ2022年10月号より。詳しくは本誌参照
商品やサービスなどの広告に使われる文章である「コピー」。コピーライターを経て、博報堂社内でプロダクト開発チーム「monom(モノム)」を立ち上げた小野直紀氏は、新たな企画を考える際にも、コピーライティング的な発想や手法が役に立つと語る。
――「コピーライティング」と「ものづくり(商品企画・開発)」の関係性をどのように捉えていますか。
コピーライティングとは、いわば「情報のデザイン」。製品やサービスの特徴や価値を、言葉やビジュアルで表していくものです。一方、商品開発は「もののデザイン」と言えます。利用者に価値を提供するために機能や形状などを決めていきます。この2つを掛け合わせて「ものづくり」をすることで、これまでにない新たな製品を生み出せるのではと考えたのが、社内でプロダクト開発チームの「monom」を立ち上げた一つの理由です。
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コピーライターの役割は、言葉を軸にして、人の気持ちを動かしたり、行動を促したりするための企画をすることです。商品について、誰に対してどんな価値を伝えれば響くのか、その商品が最も価値を発揮するシーンはどこなのかを考えて提示することで、「効くコピー」になり、商品を欲しいと思ってもらえるようになります。
商品の企画・開発においても、この「価値を言葉化する」というコピーライティング的な発想が応用できます。コピーを先に考えてみて、その言葉で提示した価値に新規性や世の中の人に欲しいと思ってもらえる要素があるなら、その商品企画は実現の可能性があるのではないかと考えます。
例えばmonomで手掛けた商品に、「Pechat(ペチャット)」というぬいぐるみに取り付けるボタン型スピーカーがあります。その企画の際に考えたのが、「すべてのぬいぐるみをおしゃべりに」というコピーです。
この「すべての●を▲に」というコピーは、既存のものに新たな価値を持たせるという方向で考えるときに、発想のきっかけの言葉としてよく使います。既存のもの(●)を仮固定して、それがどうなれば新たな価値(▲)が生まれるのかを、色々と言葉化しながら考えていくのです。
Pechatの場合は、チーム内で親子や家族に関わる商品企画を考えるというテーマを設定しました。私が人見知りの姪っ子と遊ぼうとした際に、ぬいぐるみを使ってあやすようにした経験があったことが背景の一つです。
この「ぬいぐるみで子供をあやす」という普遍的な行為がアップデートできたらいいな、と考えたときに、ぬいぐるみを仮固定した「すべてのぬいぐるみを▲に」というコピーから色々と発想していきます。その中で、「おしゃべりに」というのがひとつハマるのではないかと思ったわけです。
次に、そこから生まれる世界はどういう世界なのかを考えます。既に持っているものも含めて、すべてのぬいぐるみがしゃべり出すということですから、おしゃべりするぬいぐるみを作るのではなく、ぬいぐるみに何かを取り付けるような商品なのでは、ということが想像できます。そして、どんな商品にすれば世の中に響くのか、どんな技術が必要なのかなどと次々と逆算で考えていって、Pechatの商品企画を思いつくわけです。
――他にも、発想のきっかけになるようなコピーはありますか。
分かりやすいのは「AをBに」です。今あるAという当たり前のものやこと、あるいは考え方を、新しい価値を持つBに変えていくという発想です。
monomでプロトタイプ開発をした「ELI(エリ)」というデバイスは、普段話している日本語を記録・解析して、そのデータを基に個人ごとに最適な英会話レッスンを生成するというものです。これは、従来型の学問的な英会話の学び(A)を、普段の会話に基づいた学び(B)に変えることを目指しています。当たり前のことを疑ったときに、それをどう疑うのか、代わりにどこに向かうのかを考えることで、新たな発想につながっていきます。
――コピーライティング的に発想するときのコツは何でしょう。
いろんな生活者を、幅広く想定することです。この商品を働く人に売るとしたらどんな言葉になるだろう、子供を持つお母さんに売るとしたらどんな言葉になるだろう、おじいちゃんに売るとしたらどうだろうなどと、まずは広範囲に考えます。さらに、利用する日や時間、場所、シーンなどに細分化して、どんどんと書いていきます。
例えばコーヒーであれば、運転する人にとってのコーヒーの価値は何か、働く人にとってのコーヒーの価値は何か、ではオフィスで働く人にとってはどうか、外で働く人ならどうか、といった具合に考えていくのです。外で働く人について、どんな仕事があるのか、どんなシーンで飲むのかなどとさらに細分化もできます。生活者ベースで発想することで、企画の種になる言葉は無数に増えていきます。
コピーの世界では「How to say(どう言うか)」と「What to say(何を言うか)」の2つが重要とされますが、商品企画・開発においては、特に「何を言うか」が大事になります。そして「誰に言うか」をセットで考え、「誰に、何を」をたくさん書き出していきます。言葉化することのいい点は、くだらないものも含めて「アイデアを散らかす」作業を気軽にできるところと、書きながら頭を整理できるところです。言い回しの巧拙は、この段階ではそれほど気にする必要はありません。
次に、書き出した言葉を取捨選択するのが重要なステップです。当たり前だと思うものは捨てて、「気になる」ものを選んで残していきます。例えば「夏に外で働く人に冷たい飲み物を」は当たり前ですが、「夏に外で働く人だからこそ熱い飲み物を」だったら、そこに何かあるかもしれないと思いますよね。そういう引っかかりを探していくのが大事な作業です。
そして、残った言葉がなぜ気になるのか、どういうことなのかを深掘りして考えます。大切なのは、そこに「発見」があるかどうかです。言われなければ分からなかった、言われてみてハッとしたということは結構あって、それが実は大事な発見になります。
ELIの場合なら、「自分が日々話していることを英語で話したい」という欲求は言われてみると分かりますが、実際には正解を求める学問的な英語を学んでいる人が圧倒的に多い。であれば、そこには何か新しい価値があるのではないかと考えられるわけです。
たくさん書き出し、選んで残った「気になる言葉」について納得性のある発見があったのなら、それは新たな企画の候補になります。
注)「ずるい文章術」は、「日経トレンディ」2022年10月号に掲載しています。日経クロストレンド有料会員の方は、電子版でご覧いただけます。
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